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懲戒処分は慎重に

懲戒処分について

 

1,懲戒処分は罰

懲戒処分は、業務命令や服務規律に違反するなどして企業秩序を乱した労働者に対して、使用者が制裁として行う罰です。

会社組織の中で社員は一定のルールのもとに他の労働者と協働して仕事を行うことが求められています。もし社員がそのルールを無視して好き勝手なことをすると社内の秩序が乱れ、会社組織として成果を得ることができなくなります。そこで社内の秩序を維持するために制裁罰が必要となります。

社内の秩序を乱した者に対して、他にも、人事考課で低く査定する、配置転換をする、普通解雇をする、会社が被った損害の賠償を求めるなどの方法もあります。しかし、これらの方法では、秩序を維持できない場合もあり得るので、より強い威嚇力のある特別な罰として懲戒処分があるのです。

たとえば、無断欠勤を続ける社員に対して、人事考課で低く査定をしても、あまり効き目がない場合があります。そうなると社内の秩序維持ができなくなります。このような場合に、懲戒処分という罰を与えることによりルールを守らせ秩序を維持するのです。

私たちの社会には、社会の秩序を維持するために「刑罰」がありますが、懲戒処分はこれと似たものと考えていただいてよいと思います。

ところで、「刑罰」の行使は、制裁を受けた者に大きな不利益が及ぼします。そこで、刑罰の行使に際しては、制裁を受ける者の権利を守るために、いろいろな制限が課せられています。有名なものでは「罪刑法定主義(ざいけいほうていしゅぎ)」があります。罪刑法定主義とは、ある行為を犯罪として処罰するためには、犯罪とされる行為の内容及びそれに対して科される刑罰を予め、法令に、明確に規定しておかなければならないとする原則のことです。

人間というは、カッとするとついやり過ぎてしまうおそれがあるので、そのようなことにならないように予め決めておこうという知恵なのでしょう。

これと同じに、懲戒処分も就業規則で定めておかなければなりません。労働基準法第89条第9号には、「制裁の定めをする場合においては、その種類および程度に関する事項」を就業規則で定めないといけないことになっています。したがって、就業規則に定めていない懲戒処分を従業員に科すことはできません。

また、懲戒処分は、罰ですので、適正な手続に基づいて処分、つまり、労働者に理由の告知・弁明の機会が与えられなければなりません。

就業規則には、一般的に、戒告、譴責、減給処分、出勤停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇などが定められていますので、以下、これらについて見ていきましょう。

 

  • 戒告(かいこく)、譴責(けんせき)

戒告・譴責は、いずれも労働者に反省を求め、将来に向けて戒める処分です。懲戒処分の中では軽い処分です。戒告では、口頭での反省が、譴責は、「始末書」という書面による反省が求められます。始末書には、自己の非違行為を確認して謝罪し、将来同様の行為を行わないことを誓約するのが一般的です。なお、実務上、労働者に事実経過や顛末を報告させるため「始末書」というタイトルの文書を提出させることがあります。しかし、労働者に事実経過や顛末を報告させるための書面は「顛末書」や「報告書」とすることが望ましいと考えます。「始末書」としてしまうと、譴責という懲戒処分がくだされたかのような誤解が生じてしまうおそれがあるからです。

 

2,減給

減給は、支払われるべき賃金から一方的に一定額を差し引く制裁処分をいいます。

減給に似たものとして、遅刻、早退や欠勤した場合にその分の給与が支払われないことがありますが、これは、減給ではありません。「ノーワーク・ノーペイの原則」(労働義務の履行があって初めて賃金請求権が発生するという原則)に基づくものです。遅刻、早退や欠勤した場合には、その分の労働をしていないので、賃金請求権が発生しないというわけです。また、配置転換や降格に伴い基本給の額が減ることもあります。これも減給と異なります。これは配置転換や降格に伴い基本給の額が変動するというもので、雇用契約の条件が変わったからであり、制裁ではありません。

なお、減給には、以下のような規制があります(労働基準法91条)。

1回の額(すなわち、1件の懲戒事案についての減給額)が平均賃金の1日分の半額を超えてはいけません。また、数件の懲戒事案について減給処分を科す場合、その総額が一賃金支払い期において現実に支払われる賃金の総額の10分の1を超えてはいけません。

減給できる金額が意外と少ないと思われるかもしれませんが、この金額を超えて減給することはできません。

 

3,出勤停止

出勤停止とは、労働契約を継続しつつ、一定期間、労働者の就労を禁止する制裁処分です。出勤停止期間中は「ノーワーク・ノーペイの原則」により賃金が支給されません。出勤停止期間の上限について法律上の規制はありません。一般的には1週間から1か月が多いようです。
なお、出勤停止と似たものに、「自宅待機」があります。「自宅待機」は、懲戒事由の有無を調査するため、労働者に自宅待機を命じ、一定期間出社させない措置のことで、業務命令に基づくものなので、懲戒処分ではありません。自宅待機中の給与ですが、自宅で待機するという労務が命令されているので、原則として、支払う必要があります。

 

4,降格

降格とは、服務規律に違反した労働者に対して、役職や資格を引き下げる制裁処分をいいます。
ところで、「降格」には、「懲戒処分としての降格」のほかに、成績不良などの場合に行われる「人事権の行使としての降格」もあります。

懲戒処分としての降格の場合には、就業規則上に根拠が必要です。他方、「人事上の措置としての降格」については、就業規則上の特別な根拠は必ずしも必要ではありません。

懲戒処分としての降格は、就業規則に定めがあればどんな降格をしても許されるというものではありません。労働者の行った非違行為とそれに対する降格処分とが、均衡がとれていなければ、懲戒権の濫用となります(労働契約法15条)。

 

5,諭旨退職(ゆしたいしょく)

 諭旨退職とは、労働者に対し退職届の提出を勧告し、退職届が提出された場合は依願退職させることです。従業員が本来であれば懲戒解雇に相当する不祥事を犯してしまったにもかかわらず、会社の温情で普通解雇と同様に解雇の予告を行い、退職金を支払って解雇するのが諭旨退職です。会社側の温情策ですので、懲戒解雇相当であっても退職金は支払われますし、さらに即解雇でもなく従業員に退職届の提出を促すため、懲戒処分の中では比較的軽めの措置だと言われています。

 

6,懲戒解雇

懲戒解雇とは、懲戒処分として行われる解雇のことで、懲戒処分の中で最も重い処分です。

懲戒解雇は制裁罰ですので、「普通解雇」とは区別されています。

懲戒解雇と普通解雇の違いは、懲戒解雇の場合には、通常、退職金が一部又は全部が支払われないという不利益があることと、懲戒処分がなされたという不名誉な経歴が残るという点です。

懲戒解雇は重い処分であるため、適正な手続に基づいて処分が行われなければなりません。すなわち労働者に理由の告知・弁明の機会が与えられなければなりません。

また、解雇事由としては、普通解雇に比べて、より高度なもの、すなわち会社から放逐されてもやむを得ない事由が求められます。罰としてクビにするほかにはないくらいに相当にひどい規律違反行為でなければいけないということです。

懲戒解雇の懲戒権濫用の有無を判断するにあたっては,規律違反行為により会社から排除しなければならない程度に職場秩序を害したのかが問題となます。そこでは、
① 規律違反行為の態様(業務命令違反,職務専念義務違反,信用保持義務違反等)
② 程度,回数
③ 改善の余地の有無
等が考慮されることになります。
 懲戒解雇がなされた場合、退職金の全部または一部不支給を伴うことが多いです。退職金の全部または一部を不支給とするためには、就業規則や退職金規程等において、その旨を定めておく必要があります。なお、どんな場合でも不支給にできるかというとそうではありません。裁判例では、退職金の全部または一部を不支給とすることができるのは、労働者の過去の労働に対する評価をすべて抹消させてしまうほどの著しい背信行為が存在する場合に限られるとされています。これは、退職金が賃金の後払い的性格をも併せ持つものからです。

懲戒解雇については、就業規則上、解雇の予告またはそれに代わる解雇予告手当の支払いをせずに即時に行うと書かれていることが多いようです。

しかし、労基署長による除外認定を得ずに、解雇の予告および解雇予告手当の支払いを省略してしまうと労働基準法違反となるので注意が必要です(労働基準法20条1項ただし書、20条3項、19条2項)。

 

7,最後に

懲戒処分を検討しなければならないような事態に至ったときには、いかに温厚な経営者であっても、ついカッとなり、冷静さを失い、やり過ぎてしまうおそれがあります。懲戒処分が争われるのはそのようなケースが多いのです。

ですので、落ち着いて、より慎重に対応するように心がけましょう。

以下のような点に注意をしてください。

  • 懲戒処分を下すべき理由(懲戒事由)が就業規則に定められていること
  • 労働者に理由の告知・弁明の機会が与えられること
  • 懲戒の対象となる労働者の行為が上記①の懲戒事由に該当すること
  • 懲戒権の濫用に当たらないこと。労働者の行為とそれに対する懲戒処分のバランスがとれていること。

可能であれば、傍目八目(おかめはちもく)ということもありますので、弁護士など第三者にリーガルチェックをうけるとよいかもしれません。

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