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能力不足を理由に解雇

普通解雇〜能力不足を理由とする解雇

1,前回の復習

前回は、懲戒処分のお話をしました。

とくに、懲戒処分のなかでも懲戒解雇は社員にとっては生活の基盤がなくなる重い処分である争いになることが多いと言えます。懲戒解雇を言い渡す経営者側からすると、社員に会社を辞めてもらおうと考えるくらいですから、よほどのことがあるわけで、我慢に我慢を重ねて、ついに堪忍袋の緒が切れて、クビだ!となるわけです。そのような状況では、冷静さを失い、誤った判断をするおそれがあります。懲戒解雇が争われた事案を引き受けたことがありますが、その雰囲気は、夫婦の離婚問題と似ているように感じます。夫婦ゲンカで、売り言葉に買い言葉でついカッとなって言いすぎてしまった経験はありませんか。それと似ています。

そのようなときの判断は危険です。もう許せん、この社員はクビ!だと思ったとしても、第三者の目で冷静に考えましょう。

さて、今回は、普通解雇のお話ししたいと思います。

どこの組織にも、能力が低い従業員はいると思います。こんなにできないなら、いっそ辞めてもらいたいと思うことはありませんか。

能力の低い従業員に対して、「労働能率が劣り、向上の見込みがない」ことを理由に普通解雇をすることはできるのでしょうか。

 

2,能力の低い社員の解雇

具体的なケースをもとに考えてみたいと思います。

このようなことが問題となった裁判例があります。

セガ・エンタープライゼス事件(東京地決平11.10.15)です。このケースを見てみましょう。

(1)事件の概要

裁判例を取り上げる場合には当事者の名前を具体的に表記することは一般的ではありません。アルファベットなどで表記します。ですので、ここでも、そのようにします。

原告(訴えた側)はXと表すことが一般的です。

被告(訴えられた側)はY 会社などの場合はY社と表します。

 

この事件の被告(訴えられた側)はセガ・エンタープライズでYです。原告(訴えた側)の従業員はXとなります。

Xは能力が低いとされて解雇されたことから、Y会社(セガ・エンタープライズ)を訴えました。

 

原告X(解雇された従業員)→訴訟提起→被告Y(セガ・エンタープライズ)

 

Xは、人材開発部人材教育課,企画制作部企画制作科,開発業務部国内業務課などの部署に次々と異動を命じられました。

しかし,所属する部署の上司からXは「当部には与える仕事はない。社内で仕事を探せ」と言われました。

そこで,社内の他の部署で行き先を探したのですが,「前向きな意欲が感じられない」などの理由のため社内に仕事が見つかりませんでした。

そのため,Yから会社を退職してはどうかと退職勧奨をうけました。

しかし,Xは退職勧奨を受け入れませんでした。

そこで、Y会社は、同社の就業規則の普通解雇事由の「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」に該当するとして、Xを解雇しました。

つまり能力が低いからクビとされたのです。では、能力が低いと評価されたXは、従業員全体の中での位置はどのくらいだったのでしょうか。

Xの人事考課の順位は,下位10パーセント未満の考課順位でした。10人いたら下から1番目です。そのような順位からすると、たしかに労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」に該当するとも考えられます。

しかし、Xは、解雇の効力を争い、裁判を起こしました。

 

(2)裁判所の判断

裁判所はどのように判断をしたのでしょうか。

法律の判断の枠組みは、①ルールを確定する、②事実を確定する、③ルールに事実を当てはめて結論を出すという順番に行われます。

 

まず、解雇の根拠となる就業規則について、裁判所は以下のように判断をしています。

『就業規則一九条一項各号に規定する解雇事由をみると,「精神又は身体の障害により業務に堪えないとき」,「会社の経営上やむを得ない事由があるとき」など極めて限定的な場合に限られており,そのことからすれば,二号についても,右の事由に匹敵するような場合に限って解雇が有効となると解するのが相当であり,二号に該当するといえるためには,平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり,著しく労働能率が劣り,しかも向上の見込みがないときでなければならないというべきである。』

ここで、裁判所は、「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」という文言を文字通りには読まずに、そこから更に絞っています。「平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり,著しく労働能率が劣り,しかも向上の見込みがないときでなければならない」と限定して解釈をしています。

図式化すると下記のようになります。

労働能率が劣り→→著しく労働能率が劣り

「著しく」という限定句がつくことにより範囲が狭まっています。

 

そして、この就業規則についての解釈をもとに、次に、事実関係はどうなのか、Xが著しく労働能率が劣り,しかも向上の見込みがないのかどうかを見ていきます。

 

裁判所は次のように判断しました。

『Xは平均的な水準に達しているとはいえないし,Y会社の従業員の中で下位一〇パーセント未満の考課順位ではある。しかし,すでに述べたように右人事考課は,相対評価であって,絶対評価ではないことからすると,そのことから直ちに労働能率が著しく劣り,向上の見込みがないとまでいうことはできない。

Y会社としては,Xに対し,さらに体系的な教育,指導を実施することによって,その労働能率の向上を図る余地もあるというべきであり(実際には,債権者の試験結果が平均点前後であった技術教育を除いては,このような教育,指導が行われた形跡はない。),いまだ「労働能率が劣り,向上の見込みがない」ときに該当するとはいえない。』

この裁判例では、Xの能力評価が低いことは認めてしますが、能力が全体の中で相対的に低位であるというだけでは就業規則上の解雇事由に該当するといえないとして、解雇無効の判断をしています。

ちなみに、相対評価で低位であることを理由に解雇できるとしたら、どうなるのでしょうか。10人の社員がいたらその中で順位付けをするわけですから、下位の1,2番の社員は能力が低いとされて解雇されることになります。

 

(3)能力不足に関する他の裁判例

能力不足が争われた裁判例にはどのようなものがあるでしょうか。

たとえば、森下仁丹事件(大阪地判平14.3.22)は、労働者に技能発達の見込みがないことを理由とした解雇したケースです。

その労働者への低査定は不当といえないとしつつ、その労働者の業績不振の原因としては会社自体の業績不振や同人の配置のあり方等の事情も指摘できること、同人が過去に担当した業務の中には問題なく遂行できるものもあったこと、低査定者に対する処遇としては降格もあり得たこと等を理由として解雇を否定しています。

このように、能力が低いことを理由に解雇は認めないというのが裁判所の考え方のようです。

 

(4)仕事ができないのに

仕事ができないのに解雇できないのは、経営者側の立場からすると、腑に落ちないかもしれません。

その理由として、日本の雇用システムが定年までの長期雇用を前提に、長期間をかけて労働者を教育育成するシステムをとっているからと言われています。欧米にみられる雇用システムとは異なるわけです。最近、新聞や雑誌にジョブ型雇用、メンバーシップ型雇用という言葉が出てきます。

ジョブ型雇用とは、職務(ジョブ)の内容に基づいて必要な経験・スキルを持つ人材を雇用する制度です。その職務内容は、あらかじめジョブディスクリプション(職務記述書)に明記してあり、応募の際に、仕事内容や求められる成果、必要な経験・スキルなどが明らかにされています。そのため、ジョブ型雇用では、最初からスキルを持ったプロフェッショナルが採用されやすいという傾向があります。 
これに対して、日本に見られる、メンバーシップ型雇用では、会社の指示によって職種が変わることが多く、新卒で入社した後に、会社が人材を育てていきます。このメンバーシップ型雇用のもとでは能力の開発は会社においてOJTで行われます。このようにメンバーシップ型の雇用では、労働者の能力の開発は使用者の責任であり、労働者側の責任ではないと考えられます。

つまり、メンバーシップ型雇用において、社員の能力が低いというのは、会社側がきちんと教育訓練をして育てていないからだ、きちんと教育訓練をしていいない可能性があるので、まず、きちんと教育訓練をするようにという考えになります。

 

3,鳴かないホトトギスをどうする?

今回は、能力が低い社員の裁判例を取り上げましたが、会社にとって人材はとても大切です。能力が低い社員への対応を通して、経営者として社員をどのように考えているのかが問われているように思います。

有名な三人の武将の「鳴かないホトトギス」への対応が歌にあります。

織田信長 「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」

豊臣秀吉 「鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス」

徳川家康 「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」

あなたはどのタイプでしょうか。

ちなみに、あの有名な松下幸之助さんは、「鳴かぬならそれもまたよしホトトギス」と言ったようです。これは、鳴かないホトトギスがいてもそれが自然の姿であり、ありのままに受け入れようということだそうです。

さて、質問です。

あなたは、経営者として、鳴かぬホトトギスをどうしますか? 

以上

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