例えば,モラハラを受けて離婚を希望するケースで,「モラハラの証拠は,会話の録音です!」というお話が出ることがあります。確かに,録音は,裁判の証拠にすることができます。しかし,実際には,録音を証拠にするためにはいくつかのハードルがあります。
1つ目は,証拠として提出するためには,「録音反訳」を添付しなければならないことです。つまり文字起こしです。依頼者の方がお持ちになる録音は,話し合いの間ずっと録音していたものなどが多く,1時間を超えるようなものも珍しくありません。文字起こしの方法としては,自分で作業する,業者に依頼する,というのが定番ですが,ご自分でやるのは大変ですし,業者に依頼すると費用もかさみます。最近は,アプリを利用する方法もあるようですが,私自身は,まだ利用したことがありません。
2つ目は,明確に人格否定,脅しの言葉など,こちらが証明したいことが「はっきり」録音されているケースであればいいのですが,中には,一通り聞いても,先の例でいうと,「うーん,モラハラ?かなあ…」と録音を聞いただけではわからない場合があります。言葉だけのやりとりになりますので,第三者(裁判官)が聞くと,夫婦喧嘩のようにしか捉えてもらえない可能性のあるものもあり,必ずしも全てが証拠として有用なわけではありません。
3つ目は,上の2つと関連しますが,長時間にわたる録音の場合,どこをメインとして聞いてもらいたいのかポイントを絞る作業が必要です。ただ,録音を部分,部分で切り貼りすると,相手方からは,自分の都合のいいところだけ切り取っている,と反論されることが予想されます。どの部分に,どのようなことを証明する効果があるのかという視点から,証拠として提出する作業をする必要があります。
録音について色々と記述しましたが,録音が証拠として有用な場面はたくさんあります。実際に裁判に提出し,それが有益な証拠として利用できたケースもたくさんあります。ただ,証拠としての価値があるかどうかは,どうしても音声を聞いてみないと分からないことが多いですから,録音があるから大丈夫!なのか,さらに証拠収集が必要なのかなど,弁護士に確認いただくと良いと思います。
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