長年放置した遺産分割

弁護士に遺産分割を依頼するケースとしてまず思い浮かべるのは,相続人間に感情的対立が激しく話し合いができないケースでしょう。しかし,弁護士に遺産分割を依頼するケースは,そのような例ばかりではありません。なかでも,相続人が多数にのぼり,お1人の力では相続人を調べることも難しく,また全員の意見集約を図ることも難しいというケースは,ご依頼の中でもよくある例です。

そのような事例では,実際に使っている不動産(土地建物)の名義が,曾祖父母など亡くなって相当時間の経っている方の名義のままとなっていることが多く,その時代は今よりも兄弟姉妹の数が多いことも相まって,相続調査をすると100人以上の相続人になっていることも珍しくありません。

相続人が多ければ多いほど,住民票所在地に住んでおらず連絡がつかない方,外国に居住している方,認知症等で判断能力のない方などが含まれている可能性が高まります。そうなると相続手続を進めることが困難だったり,後見申立や失踪宣告など様々な手続きを取らなければならず費用も時間もかかったりする可能性があります。

もし,お亡くなりになっている方のままの名義の不動産をお持ちの場合には,早めの相続手続をお取りください。時間がたてばたつほど,証拠も資料も散逸しますし,記憶は薄れますし,お亡くなりになった方とは遠い関係の方々が相続人になってしまい,どんどん解決が遠のくこととなります。名義は変えてなくても,固定資産税はちゃんと払っているし,別に誰からも文句を言われずに不動産を使うことはできているから不便はしていない,という方も中にはいらっしゃいます。しかし,万一,その不動産を売ったり,建物を立て替えたり,何か大きな変動が生じる時になって慌てて手続を取ることは,上記の通り,相続人の数が増え手続が複雑化したり,証拠が散逸したりしますからとてもリスキーなことです。

また,令和6年4月1日から相続登記については申請が義務化されます。これは,法律改正以前から相続登記をしていない物件にも適用されますので,過去の相続についても対象です。具体的な相続手続を何もしないまま長年放置していることは,登記法上,認められないことになりますから,これを機に相続登記の手続を進めていただくことをお勧めいたします。