歳を取るに従い、何かに挑戦したいという気持ちが湧き上がってくる。
あれこれ考えて、世界一過酷なヒルクライム(自転車で坂を上る)レースの走行ルートを、小さな折りたたみ自転車で上ってしまおうと思い立った。
2013年3月に、台湾東部のタロコ渓谷から標高3,275mの武嶺(ウーリン)まで自転車で目指した。
タロコ渓谷は、直立する岩壁に両脇を挟まれた渓谷である。
天祥を過ぎると、横貫道路は高度を上げていく。
斜度はおよそ6%くらいだろうか。
思った以上にきつい。速度は時速8キロ。
目的地の武嶺までは65キロ。
途中に街はない。売店もない。
えんえんと上り坂が続く。
行く手には、立ちふさがるように山が現れ、それをかすめるように、くねくねとした道を上る。
こいでも、こいでもカーブが終わらない、坂が終わらない。
ずっと上りっぱなしだ。
まるで無間地獄に落ちたよう気分だ。苦しい。
こんなに坂が続くと、己の無力さを痛感し、なぜこんな馬鹿なことにチャレンジしようとしているのか自問自答を始める。
でも、始めたからには止めたくない。
>こんな坂に負けてたまるかと歯を食いしばりながらペダルを回す。
こぐのを止めなければいつか到着する。そう信じてひたすらこぐ。
しばらくすると、霧の中に突入する。中は霧雨の状態で、濡れてしまう。
山肌に雲がぶつかってくる。それがこの霧だったのだ。ときどき、この霧が薄くなると、かなり下のほうに空や谷底が見えてくる。
先の方を見ると、霧が意思をもった生き物のように山肌にあたり、ゆっくりと動いている。
水墨画の世界が広がる。幻想的だ。
横貫道路は、舗装はされているもののかなり厳しい山岳道路なので、ほとんど車は走っていない。聞こえてくるのは、タイヤが濡れた路面に接しながら発するしめった音、チェーンの音、谷間を流れる風が木々の葉をゆらす音、鳥たちのさえずり。なんともいえない美しい時間である。
途中で、自転車にトラブルがあり、その修理をしたので1時間くらいロスをしてしまった。目指す武嶺までの距離と時間を計算した。遅れそうだ。
到着時間が遅れると、帰りが危険になる。
路面が濡れた下り坂を暗くなってから下るのは危険すぎる。
そこで、午後4時をタイムリミットにして、その時点で、引き返そうと決めた。
がんばった。しかし、午後4時までには武嶺にはたどり着けなかった。
救国団観雲山荘の入口までがやっとだった。
走行距離は約55キロ、到達した標高は約2500メートル。残念だが、あと10キロちょっと残して引き返すことにした。
ゴールできなかったのは悔しい。
しかし、挑戦するというワクワク感は十分だった。
できるかできないかではなく、挑戦すること、経験することに意味があるのだ。
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