1,前回の復習
前回は、労働契約と就業規則についてお話ししました。ちょっと復習をしてみましょう。労働契約は従業員との重要な契約ですので,あらかじめ内容をしっかりと決めておく必要があります。職場のルールについても定めておくべきですが,服務規律等のすべてを労働契約に盛り込むことは契約書が分厚くなり,大変です。そこで,就業規則を上手に利用することをお勧めいたします。就業規則は働く上でのルールブックです。服務規律等を定めておかないと,トラブルが起こる度に、いちいちその場しのぎの対応をせざるを得ません。これは面倒です。就業規則を作成しておけばその都度決める必要がなくなります。また,働く際のルールをはっきりと明示することにより,社員との認識の違いから生じるトラブルを防ぐことができます。就業規則はルールブックですから,従業員にきちんと周知するのはもちろんですが,より実効性を高めるために,就業規則の内容を説明する会を開催することをお勧めしました。
さて,今回は,いわゆる問題社員への対応について勉強してみたいと思います。
2,まず就業規則を
対応の大前提として,問題行動が起こってから事後的に対応するよりは,問題行動が起こらないような対応をすべきです。
そのためには,前回お話ししたように,就業規則を従業員に守ってもらいたいルールブックとして活用することを考えましょう。
ただし,従業員に社内のルールを気持ちよく守ってもらうためには,従業員の納得が必要です。従業員に納得してもらうためには,就業規則以前に,会社の企業理念,会社が何を大切に考えているのか,会社の目標や方向性について,明文化しておく必要があります。経営者の頭の中にあるだけでは従業員に伝わりません。明文化されることによって,初めて,従業員に伝わるのです。そして,なぜ当社では○○することが大切であるのかについてもきちんと説明をしましょう。
つぎに,問題行動というのは,会社が大切にしている○○を傷つけることだ,それをはっきりと定めたのがルールブックである就業規則の服務規程なのだということを理解してもらいましょう。そして,それを就業規則の中に,「当社では△△を問題行動と考えること,そのような△△の問題行動を起こした場合には,××という制裁があります」と明示しましょう。こうすることにより,トラブルの発生を予防することができ,厄介な労働問題に発展するのを防ぐことができます。
なお,事後的に泥縄式に何か問題が生じた後にこれを禁止する条項を設けて対応しても間になうのではないかと考える人がいるかもしれません。しかし,事後に遡って懲戒処分を科すことはできません(いわゆる「遡及処罰の禁止」)。
あなたの会社の就業規則は、いつ、作られたものでしょうか。また、最後に改定や見直しを行ったのは、何年前でしょうか。もしかすると,時代にそぐわないままの規定になっているかもしれません。
たとえば,従業員が業務用のパソコンを私用に使い,私的なメールのやりとりや業務と関係のないホームページなどを閲覧していたり,業務上の重要なデータを私的なUSBメモリにコピーをするケースなどもあります。このような問題行動が起こったときに,あなたの会社の今の就業規則で対応できるでしょうか。
また,最近は,SNSで社員が会社の出来事を投稿することも考えられます。ご存じのとおり,SNSは,気軽に,容易に全世界に情報を発信できてしまう点、そして,ひとたび炎上すると瞬く間にどんどん拡散されて損害を生じることがあります。皆さんも,ネットで検索していただければ従業員やアルバイトが投稿したために炎上した例を簡単に見つけることができます。たとえば,そば屋さんのアルバイトが面白半分に食洗機内に入った写真をツイッターに投稿して,それがネット上で大炎上したことがありました。この炎上をきっかけに、そのそば屋さんは客が激減し、営業継続が困難となりが破産してしまったという事件も発生しています。このような社員のSNSについて,対応はしておられるでしょうか。一度,会社の就業規則がどのようになっているのかをご覧になってください。
3,コミュニケーション
社員とのトラブルが発生する原因の多くはコミュニケーションが不足しているために起こっているのではないでしょうか。
ふだんから従業員としっかりコミュニケーションをとることをお勧めします。一定の信頼関係がないところに,いきなり注意指導をしてもうまくいかないことが多いように思います。注意指導をしたときに,形だけはわかりましたというかもしれませんが,心から聞いてくれているのかは疑問です。人は信頼している人から言われればその人の言うことをきけますが,信頼できていない人からの言葉はあまり信用しないものです。従業員とのコミュニケーションがしっかりとられていないのに,問題行動が起こったからといって,突然注意や指導をすると,従業員から「何をいまさら」と反発を生むおそれがあります。
とある統計では,上司からの理解が不十分と感じている社員は約57%と過半数を超える結果となっています。
また,別の統計では,会社の制度で決められている面接の頻度は、「半年に1回」の回答が最も多く55%で,実際の頻度は、「四半期に1回」が約3分の1,「月に1回」「週に1回」が各々4分の1だそうです。半年に1回の面談で,従業員の考え方を知ることができるでしょうか。ちょっと回数が少ないのではないかそれでコミュニケーションが大丈夫かなと疑問を感じます。少なくとも,月1回以上の従業員とのミーティングをお勧めします。
お勧めしたいのは,いわゆる1on1ミーティングです。部下のモチベーションアップ、上司・部下間の信頼関係の構築を目的として一対一で話し合います。これに対して,人事評価面談ではおもに目標の設定、評価、業務の進捗確認などが話し合われ、その結果で今後の昇進や昇給、賞与の査定が行われます。これに対して1on1ミーティングは部下の育成、成長を促すことを目的とするため、緊急性はないけれど、今、上司に伝えたいことをテーマに話し合います。これにより,課題や悩みなどを共有でき,早い段階で問題行動の芽に気づくことができ,また,従業員との信頼関係を醸成できます。ところで,話し合う場を持てと言うけれども何を話したらいいかがわからないという人もいると思います。
たとえば,次のようなことについて話し合ってみてはいかがでしょうか。
- 現在の業務での課題や困っていることはないか。
- 組織の改善点 はないか。
- 同僚,部下との人間関係の悩みはないか。
- これまでの業務における成功体験や失敗体験からの学びはないか。
- 今、興味のあることは何か。
- これから挑戦してみたい業務はあるか。
- 上司のサポートを必要としていることはないか。
定期的にミーティングを行うよう慣習化できるかがポイントです。たくさんの従業員と一対一で話すのはそれなりに大変なことです。事前に「1on1ミーティングシート」などフォーマットを作っておくと楽でしょう。
ネットを検索していただけると,1on1ミーティングシートなどが出ています。ぜひ,それらを参考にしてください。
4,まとめ
問題社員の対応の大前提として,就業規則を活用すること,そして,まずはしっかりとしたコミュニケーションをふだんから築いておくこと,そのためには月1回以上の1on1ミーティングを実施することをお話ししました。次回は,この続きで,問題行動が起こってしまったときのヒアリングと対処,注意のしかたなどについてお話ししたいと思います。
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