問題社員の対応〜注意指導と経過観察と書面による注意

1,前回の復習

前回は、「問題行動」がおこってしまってからの対応についてお話ししました。

まずは,きちんと事実関係を把握することが必要で,そのためにヒアリングをすることになりますが,そのときは「傾聴」が重要です。「あなたは,○○という気持ちや○○という考えから,○○という行動をとったのだね」と言ってあげられるように丁寧に聴いてください。ただし,問題社員の言い分には,実際にあったことに本人の意見が混じっていることが多いので,それを区分けします。そして,実際に何があったのかを時系列に並べてみましょう。

その上で,対応を考えます。言い分が会社への不満や改善要求であり,それが妥当なものならば,会社として改善しましょう。そうではなく,もっぱら社員の側に問題があり,その行動を会社として看過することができず正す必要があるならば,その社員に対して,改善を求めます。

なお,人を注意指導するのはあまり気持ちがよいものではありません。社員に嫌われたくないという気持ちやなるべくなら面倒な事態をできるだけ早く終わりにしたいという気持ちが働き,問題社員の理不尽な要求を呑んでもいいから早くお終いにしまいたいという気持ちが起こるかもしれません。しかし,そのような態度は事態をさらに悪化させてしまうことがあります。あくまでも,注意指導は,会社のため,みんなのためでもあり,本人のためでもあります。やってはいけないことはやってはいけないと是非を毅然と伝えることが大切です。

 

2,経過観察

問題社員に対して,「いつまでに」「どのような」行動をするのか,具体的な内容をはっきりと伝えます。会社として何を期待しているのか,どうすればよいのか,具体的にわかりやすく注意指導をしてください。実は,こちらが当然のことだと思っているのにそれを理解してない社員やどのような行動をとればいいのか理解していない社員も一定数おります。ですから,具体的に何をすればよいのか,何をすべきか,してはいけないのか,それが具体的にどんな意味があるのか,誰にどのような影響がでるのかを,できるだけ,わかりやすく,はっきりと伝えてください。

そして,念のため,問題社員がいつ,どこで,どのようなことをしたのか,それに対して会社としてどのような対応をしたのかをしっかりと記録しておきましょう。

問題社員に関して対応をどうしたらよいかと相談を受ける際に,よくあるのは,問題行動が繰り返され,そのたびに,上司が注意をしたというのに,それがまったく記録が残っていないケースです。このようなケースが裁判になると,記録が残っていないために,立証するのに困ります。ご存じのとおり,証拠がないと,言った言わないの水掛け論になってしまい,そのような事実があったと認定してもらえません。

注意指導をすると,それで一件落着となりがちですが,改善されたかのフォローが必要です。問題社員の考え方や言動,行動に変化が見られるかどうかを,一定の期間を設置して観察してください。フォローを忘れがちになるので,注意指導をするときに,フォローのための面談日をあらかじめ決めておいたほうがよいと思います。注意指導により改善が見られたのであればよいのですが,それでも問題が解決しない場合は,次の段階に移っていきます。

 

3,書面による注意

問題社員に,具体的に注意をしてあげて,一定期間経過を見てきたのにもかかわらず,いっこうに改善されないのなら,すぐにでも辞めてもらいたいという気持ちが起こるかもしれません。しかし,裁判所は簡単には解雇を認めません。経営者のなかには,たとえば1ヶ月間の予告手当を支払えば解雇できるなどと容易に解雇ができると思い込んでいる方がけっこうおられますが,その認識は誤りです。解雇するのはかなり厳しく制限されています。裁判所に解雇を認めてもらうためには,会社が,これほどまでに丁寧に問題社員に手を尽くしたのに,それでもなお問題社員が改善しなかったという事情が必要となります。

ここからは,それをふまえて段階的に厳しい対応に移っていきます。

さきほど,述べたとおり,口頭の注意では「言った」「言わない」の水掛け論になり,裁判になったときに立証できない危険性があります。そのようなことを避けるためには,問題行動をはっきりと記載した書面を交付し,あわせて,問題社員からその記載された内容について齟齬がない旨の署名押印をもらっておくようにすべきです。