令和3年1月の原稿です。
新年,あけましておめでとうございます。
さて,昨年は年初から新型コロナウイルス感染症に翻弄された一年でした。いったんは収まりつつあると思えた新型コロナウイルス感染症ですが,その後,第2波,第3波と続き,新年を迎えた今も感染者の数が増加しつつあります。でした。新型コロナウイルス感染症は,リアルな空間で,人と人が接することを困難にし,あらゆる社会生活に影響を及ぼしました。そのために,多方面にわたり,前例のない対応を余儀なくされ,業績へ深刻な影響を受けた会社も少なくありませんでした。ワクチンの接種が始まりますが,これから当面は新型コロナウイルス感染症との長い闘いが続き,私たちは,さらに大きく変容を求められると思います。
世の中は常に変化する。それにどのように対応するべきでしょうか。
皆さんは,『チーズはどこへ消えた?』(スペンサージョンソン著 扶桑社)を読んだことがありますか。91ページの薄さで,寓話形式で変化への対応の重要性を説いたお話しです。あらすじをご紹介します。2匹のネズミと2人の小人が、毎日迷路の中を走り回り、その日の食料を探し求めていましたが,ある場所に,大量のチーズを発見します。ところが,ある日、チーズが消えてしまいました。
ネズミは新しいチーズを探すために別の場所に走り出していきました。しかし小人は、チーズがなくなったことに納得がいかず「これは何かの間違いだ」「明日になればチーズは戻ってくる」「チーズを誰かが持っていったのだ」「チーズが消えた原因を調べなければならない」と、チーズが戻ってくると思って、チーズのあった場所から離れようとしませんでした。それでも、チーズは戻ってきません。ある日、小人の1人が「新しいチーズ」を探しにここから離れる決意をします。はたして2匹と2人は、新しいチーズを手に入れることができるのでしょうか。
環境が変化しているにもかかわらず,我慢して待っていればいつか元のとおりになると考えていないでしょうか。
似た話に「ゆでガエル」の法則があります。これは,「カエルは、いきなり熱湯に入れると驚いて逃げ出すが、常温の水に入れて徐々に水温を上げていくと逃げ出すタイミングを失い、最後には死んでしまう」というものです。こちらは,変化が緩慢だとそれに慣れ過ぎて、対応するタイミングを逸しやすいというものです。たとえば、業績の悪化しており、抜本的な収益構造の転換や組織改革の必要に迫られているにもかかわらず、「うちはこのやり方で伸びてきたのだから」と過去の栄光にすがり,あるいは,変化の必要性には気づきつつも,今までどおりにやろうとしてしまうなどがゆでガエルの例です。
とくに,これからAIやロボットの飛躍的発展による影響は大きいように思います。今後,人間のさまざま仕事がAIやロボットで代替することが可能となります。そうなると,ビジネスのやり方も考え方も,日本が得意としてきた「ものづくり」中心の考え方も変化を迫られます。
これまでの比較的安定していた時代においては,ビジネスにおいて流れがある程度パターン化されていました。そこでは決められた仕事をいかに効率よく大量にさばいていくかが重要でした。しかし,これからは,そのような仕事はAIやロボットが代替していくでしょう。AIが得意とするのは明確に定義された問題に対して膨大なデータから推論すること,与えられた問題の答えを解くことです。そうなると,人間の役割は,解決すべき問題は何かを考え出すことになります。いいかえれば,いままで問題だと思われていない領域に関して,疑ってかかり,そこに問題を見いだしていくことが必要になります。つまり,いままでの常識を変え,発想を変えなければならないということです。具体的には,当たり前,常識だと思われていることについて,その理由を,なぜだろうと疑ってみるということです。しかし,常識を疑ってかかるのは常識人である皆さんには難しいかもしれません。たとえば,商品やサービスをいったん異文化の視点から考えてみてはいかがでしょうか。
さて,私がなかなか司法試験に合格せずにどうすべか煩悶しているころに,禅寺で教えていただいた一休さんの遺言の話があります。
一休禅師は臨終の折に、弟子たちに遺言をしました。
「この中に私の遺言状が入っておる。私が死んだ後に、この遺言状を開けてはならぬ。大切にしまっておき、百年、二百年の後になって、仏教が亡ぶか、この寺が倒れるかというような一大事が生じたとき、人々があらん限りの知恵を絞り、議論をたたかわせてみても、どうにもならぬというような危急の際に開くのだ。そうすれば,その一大事の解決方法は、たちどころにわかるであろう」
その後、大徳寺本山に大問題が起こり、そこで大徳寺の僧たちは,七日間、大接心をしてから遺言状を開いたのです。一休さんに助けてもらえるのではないか期待しながら。
ところが,そこに書かれていたのは、
ナルヨウニナル シンパイスルナ
それを見た一同は雷に打たれたようにハッとしたそうです。
それから僧たちは全身全霊で尽力したとのこと。
出来事は,人間いかに気を揉み、知恵を絞り、頭を悩ましてみても、落ち着くところ落ち着くものです。私たちにできるのは,しなければならないことを徹底的に尽くすことなのです。
私は,この話を聞いてから,何度も,この言葉に救われました。
いつか機会があれば,皆さんにお伝えしたいと思ってきましたが,それが今のような気がします。
ナルヨウニナル シンパイスルナ
その他の記事ARCHIVE
- 2023.09.02 後藤 直樹
- なかなか相続対策が進まない親の心理…
- 2023.08.02 後藤 直樹
- 争族にしたくないなら対策しましょう…
- 2023.08.01 後藤 直樹
- 事務所移転のお知らせ…
- 2023.07.28 後藤 直樹
- 従業員のソーシャルメディア利用について…
- 2023.07.26 後藤 直樹
- ヘルメット着用義務化について…