前回、法律問題を考える際に、3つの点からチェックするということでした。
法律適合性✖証拠✖相手の資力
これを第1公式とします。
繰り返しになりますが,「法律適合性」とは、相談者が行った契約が法律に違反していないことです。次に、「証拠」です。そのような出来事が確かにあったのだと裏付ける証拠が必要です。そして,「相手の資力」です。相手が財産を持っているか,それがどこにあるかを把握しているかです。このどれかを欠いているとその相談者の権利を実現するのはかなり難しいです。
今回は,中小企業の経営者の視点から,トラブルになったときに裁判をすべきかどうかについて述べてみたいと思います。
実は,第1公式には補足があります。それは,コストの検討です。
たとえば,あなたの会社がある人に10万円の商品を売却したとします。その人が約束した支払日を過ぎても10万円を支払ってくれないというケースで考えてみましょう。
まずは,法律適合性をチェックしましょう。売却した商品は,法律で禁じられているものではなく,ごく一般的な商品であり,その売買契約は,法律上は何らの問題も見当たりません。法律的適合性があります。
次に,証拠はどうでしょうか。口約束で売却したのでなく,きちんとした売買契約書を取りかわしていました。その契約書の内容を見ると,売買の目的物,売買代金額,売買代金の支払時期,契約日,契約者の署名押印があり,1売買契約の内容がしっかりと裏付けられていることがわかりました。
そして,相手の資料の点です。売買をする前に,営業マンがその相手方といろいろ雑談をしたのですが,その際に,相手の財産がどこにあるのか,取引先などを聞き出しておきました。その情報から,相手が支払えるだけの財産を持っていることは明らかのようです。この場合,第1公式のすべての項目をクリアしたことになります。
交渉して相手が任意で支払ってくれれば問題ありません。
しかし,支払ってくれない場合には,強制的な回収を考えなければなりません。ごく稀に,脅して支払わせようとする人がいますが,自力救済は禁止されています。
そのような回収は認められていません。いくら権利者であってもそのようなことをすれば犯罪になります。権利を実現するためには司法の手続をとらなければなりません。つまり,訴訟を起こし,強制執行をしなければならないということです。
訴訟を起こすためには,労力と金銭コストがかかります。
訴訟のためにどんな労力を要するのでしょうか。裁判所では,口頭では訴え提起を認めてくれません。ほぼ必ず,訴えたいなら,訴状を作って持ってきてくださいと言われてしまいます。この訴状には,一定の書式があり,そこに記載する内容は法律的にみて必要十分でなければなりません。
弁護士でない人が作成した訴状をたまに見ることがありますが,ほとんどが十分ではありません。弁護士でない人が訴状を作ると,自分の体験したことや自分の思ったこと感じたことをそのまま書いています。
おそらく,素直にすべてを書けば裁判官はわかってくれるはずという想いがあるのかもしれません。
しかし,書けばよいというものではありません。勝つために何を書かなければならないのか,ポイントをつかんで整理しなければなりません。
このようなことには手間がかかります。このような手間を考えると,弁護士に依頼したほうがいいだろうということになるでしょう。仮に,弁護士に依頼しても,すべてを任せっぱなしにはできません。訴訟の準備のための資料の準備,打ち合わせなどが必要となります。いずれにせよ,労力がかかるということは間違いありません。
次に,金銭コストです。裁判所へ訴えを提起するためには,印紙代と切手代が必要です。
もし,弁護士へ依頼すると,弁護士への支払が生じます。一般的に,弁護士の報酬には,依頼をした最初に支払う「着手金」と終了したときに成功の程度に応じて支払う「報酬金」があります。いずれも訴訟の目的物の金額によって決めるのが普通です。大ざっぱには,着手金8%,報酬金16%が目安です。しかし,例外があり,着手金,報酬金とも最低額は10万円です。
つまり,10万円の代金支払について,訴訟を起こし,そして,勝訴判決をとった場合は,着手金10万円,報酬金10万円,合計20万円が必要となります。10万円の回収をするために,20万円の金銭的コストが生じるのです。
さて,このような場合に,あなたは弁護士に訴訟を依頼するでしょうか? まず,特別な事情がないかぎりしないでしょう。企業経営をしていく上では,経済的な合理性に基づき判断をします。回収のための労力と金銭コストを計算し,回収の見込額が割に合うのかを考えなければなりません。
ここに,第1公式の補足が登場します。
法律適合性✖証拠✖相手の資力 > (労力+金銭コスト)
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