AIと弁護士の仕事

私が司法試験に合格した30数年前は,パソコン通信くらいしかありませんでした。
いまのようなインターネットはありません。
法律の情報を得るためには,ひたすら紙の法律専門書,判例集を読み込まなければなりませんでした。
何度も何度も基本書を読み,汗をかきながら,知識を頭にたたきこみました。
そのような知識を持っているのは,試験に合格した限られた専門家でした。専門情報が独占されていたわけです。
依頼者の皆様としては,法律に関する情報を得ようと思えば,膨大な時間をかけて,法律専門書,判例集を読み込むか,それとも専門家を利用するしかなかったわけです。膨大な時間をかけて,法律専門書,判例集を読むコストを考えれば,専門家にさくっと聞いた方が安くて早いわけです。
ですから,依頼者様からいただく報酬は,私たち士業が独占する情報の対価として位置づけられていたように思います。いわば情報提供型のビジネスモデルだったといえます。
ところが,インターネットの普及による情報革命は,情報の独占を破壊しました。
いまや大量の情報がネット空間に存在し,それらの情報を無料で手に入れることができるようになり,情報の独占が崩れ,情報提供型のビジネスモデルは崩壊しつつあるように感じています。
私たち弁護士の場合,主に事後的な紛争解決サービスを提供してきました。
もめごとになったら弁護士の出番という立ち位置でした。
たしかに,その部分はAIが発達してもAIが代替することは難しいでしょう。
しかし,事後的な紛争解決サービスの枠組みを超えて,一歩踏み込んで,法的な立場から中小企業の経営者の経営のお手伝いができるのではないかと考えています。
経営者は,先の見えない将来に対して,何らかの手を打ち続けなければなりません。
そして,ある事業を実現しようとするためには,いろいろな道筋があり,ゴールに至るまでにはいろいろとリスクが発生します。
経営とは,リスクに対する挑戦です。リスクはゼロにはできませんが,ふれ幅を狭めなければなりません。経営者は,激変する環境下で,リスクにどのように対応するのか,困難な判断を迫られます。
そのような際に,専門的な知見をもとに経営の判断のお手伝いをすることが私たち専門家の仕事だと思います。
私たちは,これまでの経験のなかから,どのような点が問題になりやすいかは理解しています。
それはある種の肌感覚で,それは技術的なスキルというよりもいわゆるセンスです。リスクを考える際には,それを利用していただきたいと思います。

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